リスクとなる要因と強みになる要因
かなり時間があきましたが,第7章「加害行動に関連した静的要因、安定的要因、動的要因」の後半部分では章のテーマである静的(Static)要因、安定的(Stable)要因、動的(Dynamic)要因の3要因について論議されます。その要点を示します。
<静的(Static)要因>とは、変化しない要因で、その人の生育史/生活歴における出来事です。例えば,出産状況、家系や文化、早期の経験など過去の歴史上の出来事で、変えることができません。3要因のどれについてもいえることとですが、要因についてはリスクとなる側面とメリットや強みとなる側面があります。例えば、出産状況では、通常の出産ではリスクになりませんが、胎児性のドラッグやアルコールへの暴露があるとリスクになりかねません。共感に満ちた乳幼児期の養育は今後の発達についてのメリットや強みになります。逆に乳幼児のニーズや状態に無頓着な不適切な養育はリスクとなる可能性が高まります。 静的な要因の一つである早期の養育は、さまざまな心理的影響をおよぼします。養育者は子どもが泣くこと、笑い、視線などさまざまな行動をニーズを知らせる合図として読み取り、子どものニーズに満たそうと愛情を込めて養育します。こうした養育は共感的な人間関係の基礎を形作ります。一方、養育者がこうした感受性を示さず共感的な養育が不十分であれば、子どもは自分の内側からのニーズや感情、例えば、遊んでほしい、空腹だ、不快だ、などを感じ取って、養育者などとのコミュニケーションのチャンスを失います。対人関係に必要なスキルの獲得や自分の感情などに対する感覚が危機にさらされ、基本的信頼関係の形成に悪影響を及ぼします。
<安定的(Stable)要因>は永続的で変化しにくい要因で、その例として気難しさなどの気質や学習上の問題があげられます。これらは変えられず固定的なものとまではいえないけれども、変化させるには時間やエネルギー必要にかもしれません。
<動的(Dynamic)要因>は変化する要因で、変えることが可能な要因です。動的リスクは、病気やケガ、未解決の情緒的問題など長期的で全般的である程度予見できるものと、怒りや不安、低い自己肯定感や不十分な自己効力感のように人よって異なり、個別的で状況に左右されやすく、日常的なものの二つにわかれます。
過去の出来事は変えられず、変化しない要因とはいっても現在に対する影響は変えることができます。加害行動への介入や心理支援の目的は、動的で変化しやすいリスク要因を減らし、同時に加害を阻止し健康さを増進する保護的要因を強め、静的なリスク要因の現在への悪影響を減らすことです。
加害行動のリスク要因を低下させる動的な強みとして本書は以下の8項目をあげています。(Table 7.5 Dynamic Assets Relevant to Decreased Risk. p.93を一部加筆修正)
②リスクを知る
③加害による解決にたよらず加害のサイクルを阻止する
④新たな対処方法を身に付ける
⑤不快感や嫌悪感など自己と他者が示す手がかりに気づき応答する(共感性)
⑥自己の行動に責任をとる
⑦フラストレーションや不快な出来事に気づき対処する
⑧自己に対する認識やイメージとは相いれない加害の考えをしりぞける

逆にうまく機能できていない場合、例えばストレス要因に対して怒りや暴力などによるのは、人生の初期段階で対処のためのスキルが習得できず、養育者など周囲からの援助も得られなかったために一時的な適応として生じたのかもしれません(③ ⑤ ⑦)。加害など問題行動による対処法が頭に浮かんだときにはそのパターンを遮断し(⑧)、支援や指導の中で新しい対処法や選択肢を示します(④)。
加害に関連した共感性の欠如は、他者が苦痛や不快であることを示す手がかりを認識できなかった、手がかりを誤解釈した、あるいは不快や苦痛を気にかけなかった結果ではないかと考えられます(p.94)。(① ⑥)
健康さを増やす動的な強みとして9項目あげられています(Table 7.6 Dynamic Assets Relevant to Increased Health. p.95) 。最初にあげられているのは、積極的な人間関係のスキル、特に人間関係において親密さや信頼感を確立する能力はです。心理的に安全で共感的な人間関係を構築する能力は、対人加害のリスクを減少させる最も保護的な要因の一つであるからです。さらに、向社会的(他者や社会に対して配慮し協力的な行動をとる)な友人、家族や地域社会のサポートなどが続きます。リスクにより加害行動により逸脱へと強化されることに対して健康的な愉しみによって対抗することが重要だと結ばれます
2023/07/28 09:30 | 未分類 | trackback(0) | top