「境界線」を越えること

ある行為を暴力であるのかどうかを判断するのは比較的容易かもしれませんが、暴力を説明せよと言われると、少しばかり時間がいります。暴力をどう定義しているか。「新辞林」をひらくと、
(1)乱暴な力。無法な力。
(2)物理的強制力を行使すること。特に,それにより身体などに苦痛を与えること
と説明されます。どちらかといえば行為をする側に軸足があり、具体的な行動との印象です。
 
 今年の3月に、性加害のある知的障害者を対象とした心理教育のための記述式ワークブックを翻訳刊行しました。

クリシャン・ハンセン、テイモシー・カーン(著)、本多隆司、伊庭千恵(監訳) 『性問題行動のある知的障害者のための16ステップ ー「フットプリント」心理教育ワークブックー』 明石書店
Hansen,K., & Kahn,T.J. (2006). Footprints : Step to a healthy life. The Safer Society Press.

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 この本では、対人関係のスキルや社会生活のスキルにつながるさまざまな考え方が示されます。「境界線」はそのうちも重要なもののひとつです。このように説明されます。

”プライベートとは、あなただけのものという意味です。自分だけのプライベートなものには境界線があります。寝室のかべやドアは境界線です。服も境界線です。横断歩道をわたるとき、二本の白線の間にいれば、安全です。この二本の白線が境界線なのです。” (本書p.49 ルビ付き)


 わたしたちは、日常生活で「境界線」をことさら意識することはないと思います。しかし、理解し、実感することから、加害者への臨床的実践が始まります。

 ”からだのまわりにある境界線は、目に見えません。自分のからだの境界線がどうなっているのか知るために、からだの前にうでをつきだしてみましょう。それがあなたの空間です。「自分だけの透明なドームがあるんだ」と思ってください。近よられたり、中に入ってこられるのをいやがる人もいます。自分の持ち物にも見えない境界線があって、他の人にはさわってほしくないと思います。プライベートなもの、あなただけのものには、境界線があります。”  (本書p.49-50 ルビ付き)


 「境界線」は自己と他者を分けるものであり、同時に私的と公的を分けるものです。相手の許可なく「境界線」を越えることを暴力であると説明します。身体的か物理的か、言葉かというあらわれ方ではなく、また法律に従っているかどうかではなく、許可なく「境界線」を越えて浸入することが暴力です。
 他者の「境界線」を知り、尊重することが、他者に敬意をはらうことを導きます。適切な対人関係をつくるための基本的なスキルであって、加害を止める第一歩です。
 一方、自己の「境界線」を知り、尊重することも大切です。自分のからだにも心にも「境界線」があります。それを意識しておくことで、逆に被害から身を守ることが始まります。
 このワークブックでは「境界線」の理解をすすめるため、ひとつのステップ(章にあたる)を設けていくつかの課題を与えています

 大阪府内の相談機関や施設などの専門職の方々、イラスト担当者も合わせると総勢18人の共同作業でした。共同で作業した人たちとともに、このワークブックを使用して実践的な試みを始めています。こうした加害者に対する臨床的な実践も福祉分野の一つです。     (本多隆司)




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2009/07/31 00:00 | 未分類comment(0)trackback(0)  | top

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