漫画も優れた教材

 「漫画なんか読んどらんと、勉強せえ!」とオヤジからげんこつをもらったことを今でも鮮明に覚えている。今の学生諸君はそんなことはないと思うがどうだろうか。それからというもの漫画は友達の家で読むことにしたので、そのことでげんこつをもらうことはなかった。もう50年ほど前の話である。
 時代も大きく変わり今や大学に「マンガ学部」があると聞いて驚く人はそんなに多くはないだろう。漫画もりっぱな学問になったのである。公立の「マンガ図書館」もできている。中には教材そのものとして使える漫画も結構でてきている。この新学期から弘兼憲史の『黄昏流星群』を老人福祉論の教材にできないかと準備をしていたところ、新聞に次のような記事がでていた。

                            『ワンピース』の新聞記事
                 縮小版 ワンピース
                         (平成24年3月5日付け 朝日新聞朝刊)

 『ワンピース』が人権の教材に使われている。『ワンピース』と言えば、男子学生が「ワンピースにはまっている」という発言にびっくりしたことをいつか小欄で紹介したことがあるが、「女性の服」ではなく、伝説の海賊王が残したひとつなぎの大秘法をめぐる少年冒険マンガ「ONE PIECE(尾田栄一郎作)」である。念のため。日曜日午前9時30分からテレビ(8ch)でアニメ放映されている。

 大阪府立高校の先生がこの『ワンピース』を使って「世界の人権」という授業をされたところ、南アフリカのアパルトヘイトやアメリカの公民権運動の授業より驚きを持って生徒の心に届いているという。『ワンピース』を活用した授業は、外見のせいで仲間はずれにされ、孤独だった登場人物が、友達との出会いを通じて成長していく、そんな姿が受けて、大阪府内の高校にじわじわ広がっていると新聞は紹介している。

                            弘兼憲史『黄昏流星群』
                  縮小版 黄昏流星群
                  (写真左が「遊星萌ゆ」(35巻)、右が「C-46星雲」(39巻) BIG COMICS 小学館)

 弘兼憲史といえばサラリーマンの生態を描いた「島耕作」シリーズが有名であるが、中高年の老いゆく過程での輝き、悲哀を描いた『黄昏流星群』も弘兼のロングセラーとして人気を博しており、気にいっている作品のひとつである。誰にとっても老いゆく先は未知の世界、とりわけ学生達にとっては想像力の彼方にある。そういう意味で、だれもがいつかは到達するであろう人生の「黄昏」について学生達といっしょに考えていく授業にしたい。

 閑話休題。うがった見方をすると、『ワンピース』を授業で使う取り組みが始まっていることが新聞記事にされる背景には、やはりどこか「漫画なんかは教材にはなりえない」というような意識が世間にあるのかもしれない。ひょっとすると、あの50年ほどまえの石頭のオヤジの「漫画なんか読んどらんと」というような、漫画を低俗なものとしかみない偏狭な考えがどっこいあちこちにまだ生き残っているのではないか。『ワンピース』の記事を読んでいてそんなことふと思った。
(明石隆行)

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2012/03/12 00:00 | 未分類comment(0)trackback(0)  | top

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