The Captain Is Out to Lunch and the Sailors Have Taken over the Ship.

ブコウスキー1   チャールズ・ブコウスキーの『死をポケットに入れて』(中川五郎 訳、ロバート・クラム  画、河出文庫)の原タイトルです。「船長は昼食に出かけ、船乗りたちが船を乗っ取ってしまった。」(文庫本p.218)との訳ですが意味が?です。

 1920年8月16日まれのブコウスキーの71歳から73歳までの33の日記です。このタイトルは、『93年2月27日 12:56AM』とある日記の最終章の冒頭の文にあります。それに続く文は脈絡なく、

おもしろくて興味深い人間は、どうしてほとんどいないのか?

と始まって、日常生活を送るのに『まぬけな野郎』と罵倒する人々と交流せざるを得ないと悪態をつき、ページをめくるとクラシック音楽、たぶんマーラーを3、4時間聞いている。映画から作家の話題に転じ、彼らの作品は読むのに苦労する。作家には文体というものがなく、冒険心もなく、精ブコウスキー2気も炎もないとこき下ろし、憤懣、苛立ちをつなぎとして、話題が次々に切り替わります。

 作家としての自分の言葉に勢いがなくなれば、原稿の上にワインを注ぎ、火をつける。屑かごが燃えたら、たっぷりとビールをかける。そのあげく、届いた読者?からの手紙に毒づいて、
  ・・・それにわたしはトルストイだって嫌いだ!

でこの章、つまりこの日記は終わります。日記? 文を書く自分を丹念に虫眼鏡でみている自分をブコウスキーが実況中継しているように思えます。
クラシック音楽、葉巻、コンピューターが、文章を踊らせ、わめかせ、大声で笑わせてくれる。悪夢の人生もまた手助けしてくれる。

 邦題はヘミングウエイに始まる91年9月12日11:19AMの日記(p.20)のなかで、死に対する用意ができていない人が多いけれど、私は『死を左のポケットに入れて』、ときブコウスキー4には取り出して話しかける。
 「やあ、ベイビー、どうしてる? いつわたしのもとにやってきてくれるかな? ちゃんと心構えしておくからね」

 71歳のちゃめっ気。
 タイトルにあるOut to Lunchには「酒・麻薬で〕正気を失った」という別の意味ももあります(英辞郎o on the web)。船長はブコウスキー自身だとしたら船乗りたちって誰のこと?振り落とされないように必死で安全バーをつかんで読む日記です。なかなかやめられない。

 はじめてブコウスキーを読んだのは柴田元幸 訳『パルプ』(ちくま文庫)です。文庫本腰巻きにあるとおり、私立探偵ビレーンが一人で立ち回るの傑作怪作です。探偵小説だと思って読むとぶっ飛びます。依頼人には女死神やら美女宇宙人やら。この暑さなんてなんのその。
 つぎは、藤原新也のカバー写真が魅力的な、青野聰 訳『町でいちばんの美女』(新潮文庫)です。         (ホンダタカシ)




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2017/08/04 19:21 | 未分類trackback(0)  | top

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