女性が受けた暴力被害の調査

  龍谷大学で開催された公開シンポジウム『人はなぜ暴力を振るうのか、その対策とは』の続きです。基調講演のあと、シンポジウム「日欧比較ー女性を対象とした暴力被害調査」がひらかれ、大変興味深い二つの報告がありました。

 「EUが実施した女性を対象とした暴力被害者調査の目的と成果」と題し、Sami Nevala氏(欧州基本権機関・統計調査部門主任)が報告されました。調査はEUの28カ国の18歳から74歳の女性を対FRA.jpg象にインタビューによって行われました。調査は、現在のパートナー・過去のパートナー・パートナー以外による暴力被害を対象に、身体的・心理的・性的被害の体験、子供時代の被害体験、セクハラやストーカー、さらに支援機関との接触、関連施策との意識など多岐にわたる内容です。

  結果の詳細は、当日配布された資料(Violence against women: an EU-wide survey. Results at a glance http://fra.europa.eu/en/publication/2014/violence-against-women-eu-wide-survey-results-glance)に詳しく載っています。

 注目したのは児童虐待を扱った「1.6 Experiences of violence in childhood」についてです。児童期逆境体験ACEの項目でもあります。そのなかで、子供時代(15才以前)に性暴力被害を受けた女性は12%!であったと報告されています。身体的虐待の経験は27%です。0%であることが当然だと思えば、約1割から2割は高率です。明るみに出ないものも含めれば広がっており(女性への)児童虐待については、EU諸国は再び重点的に取り組むべきだと報告書は訴えています。

 では、日本ではどうでしょうか。
 シンポジウムでは「日本調査からわかったこと」との発題で、浜井浩一氏、津島昌寛氏が報告されました。調査内容や対象年齢はEUと同じですが、近畿圏在住の女性が対象になりました。回収率は30.3%、EUは平均42.1%ですが国によるバラつきが大きかったようです。

 調査結果では、15歳以前に大人からの(身体的・心理的)暴力被害を受けた女性は14%ですが、EUでは35%でした。しかしながら、性暴力被害については10%!で、EUの結果(12%)に近い結果です。
 また、15才以上での深刻な暴力被害を警察に通報したかどうかを見ると、非パートナーからの暴力は12%(EUは13%)の女性が通報しましたが、パートナーからの深刻な暴力被害を警察に通報した女性は日本では0%!(EUは14%)でした。この結果はさまざな要因が混じり合っ小和田た結果であると思われますが、こうした結果を重ね合わせると、報告されない、通報されない暴力被害も多く、EUの報告書の指摘と同様の実態なのかもしれません。
 厚生労働省の児童虐待統計では児童相談所への虐待相談件数とされ、総虐待相談件数に占める性虐待相談の割合は低位です。今回の調査結果を考えれば、実際とのズレが生じているかもしれません。
 なお、龍谷大学の調査結果は報道提供されており、ご紹介した内容は報道さ小和田ホームれています。


  さて。
 この駅舎は豊橋と辰野を結ぶ飯田線小田山駅です。俗に秘境駅と呼ばれる無人駅です。確かに民家からは離れていますが、秘境と呼ぶかどうかは難しいところです。でも、臨時急行「秘境号」が運転され、たくさんの探検家が乗車されます。見物人の多い秘境というのも形容矛盾のような気がしないでもありません。映画のロケにも似合いそうな美しいたたずまいの駅です。
 無人駅も多いので車掌(カレチと呼ぶらしい)さんは切符の回収や出発合図、それに観光案内まで大忙しです。2両編成の電車が天竜川など三河川合の山あいをくねくねと走ります。紅葉が染める車窓を肴にビールを飲めば、ローカル線気分は上々です。      (ホンダタカシ)


2017/11/24 22:05 | 未分類trackback(0)  | top

「人はなぜ暴力を振るうのか、その対策とは」

  過日、犯罪社会学会の公開シンポジウムが「人はなぜ暴力を振るうのか、その対策とは」をテーマに龍谷大学で開かれました。暴力の解剖学
 「暴力の解剖学」というタイトルでペンシルベニア大学教授エイドリアン・レイン氏が基調講演をされました。同名の本が出版されています。

  エイドリアン・レイン 高橋洋(訳)(2015) 「暴力の解剖学:神経犯罪学への招待」 紀伊国屋書店

 本のサブタイトルに神経犯罪学という耳慣れない学問領域が提案されていますが、基調講演の副題にあるように「犯罪の生物学的起源を分析する」ものです。。犯罪、とりわけ暴力について、胎児に対する喫煙、薬物使用、アルコール摂取の影響、さらに多数の脳の画像などによって大脳の構造や脳機能の不全と暴力犯罪の強い関連、最後に栄養状態の影響が解説されました。
 こうした生物学的側面ばかりがを目立ちますが、著書ではさらに生物学要因と社会的要因の相互作用をバイオソーシアルなものとしてとらえ、反社会性や暴力の生成が検討されています(本書 第8章)。

 マイケル氏(仮名。著作ではオフト氏)の事例は衝撃的です(本書 pp. 452-455)。学校教師であって、再婚して子供と奥さんがいるマイケル氏は、40歳頃から徐々に変化し、小児などを対象にした性暴力犯罪を実行しました。介入プログラムを受けましたが、性暴力は改善しません。ところがマイケル氏の脳に腫瘍が見つかり、それを切除したところ行動が激変し、情動、認知や行動も改善し、プログラムも終えることができました。
 ところが、数ヶ月後再び行動は悪化したので検査したところ、腫瘍が再び見つかったので切除したところ、以前のように戻ったとのことです。ハンドアウト

 著者エイドリアン・レイン氏は、この事例について次のような問いを発します。個人の力では対処できない脳腫瘍のために反社会的行動が引き起こされたのなら、「(その)逸脱行動には法的責任があるのか?」(p.455)。本人の意思は腫瘍に左右されるのか、それとも腫瘍のあるなしに関係なく意思は存在するといっていいのか。
 講演会場では問えるー問えないのどちらの意見もあったように思います。私はといえば、腕組みしたままで答えることができませんでした。

 このシンポジウムの中の「日欧比較ー女性を対象とした暴力被害調査」では初めて目にしたデータもあり、大変興味深いものでした。次回にでもご紹介します。       (ホンダタカシ)

2017/11/10 20:56 | 未分類trackback(0)  | top

すべての子どもに遊び場を/公園のユニバーサルデザイン

 つい最近出版された本です。子どもの遊び場
 みーんなの公園プロジェクト 柳田宏治・林卓志・矢藤洋子(編著)(2017)「すべての子どもに遊び場をーユニバサルデザインによる公園の遊び場づくりガイド」萌文社

 この本は、視覚や聴覚に障害のある子ども、クラッチなど福祉用具を利用する子ども、発達障害などさまざまな特性のある子どもが対象です。ユニバーサルデザインの原則を取り入れた子どもの公園の考え方、地域の人たちガイドなどからのさまざまな意見、もちろん子どもたちの意見をもスパイラルアップしていくデザイン、 そして最後に、誰もが楽しめる遊び、遊具、場所が、写真を多用して紹介されています。

 文字にするとこの楽しさは伝わりにくいのですが、この本を作った「みーんなの公園プロジェクト」のホームページをご覧いただく方がいいかもしれません。http://www.minnanokoen.net/index.html

 公園というのは、誰もが利用できる、楽しめる、喜んで迎えられるコミュニティにある場です。
授業では、公園のユニバーサルデザインというタイトルで、視覚障害のあるお父さん、ガイド2お母さん、子どもの3人家族が休日に楽しめる公園をテーマに行いました。事前に手引きとアイマスクによる歩行を何度か練習したうえで、中書島にある府立伏見港公園http://www.kyoto-park.or.jp/fushimi/のフイールドワークに出かけました。この授業については、以前にも取り上げています。
すべり台  当日は雨天で、先の台風で飛ばされた草木や残された泥などがあり、コンディションはよくありませんでした。移動する、触れる、聞く、嗅ぐなどからだを総動員してフイールドワークしました。
ブランコ
 どこの公園でも見かけるすべり台やブランコですが、子どもなら誰でも安全に楽しめるものにするには、どうすればいいか。
コストを度外視してというわけにはいきません。すべての子どもや大人が楽しんでいるシーンをいかに想像できるかが試されます。        (ホンダタカシ)

2017/10/29 10:56 | 未分類trackback(0)  | top

「十代の脳の謎」

IMG_1735.jpg  前回のテーマとした法務省の勉強会資料のひとつ、八木先生の「青年期の発達と若年受刑者の実態:精神医学的観点から」に引用されていた論文を入手したので簡単にご紹介します。
   J. N. ギード「10代の脳の謎 The Amazing Teen Brain」日経サイエンス2016年3月号 pp.37-42。この雑誌は必要な論文記事だけをPDFとして購入できるので便利です。

 10代の脳は、それまでの子どもの脳が老いたものでもなく、かといって大人の脳の未完成品(生煮え版!とのたとえ)でもない。10代の脳はサイズが大きくなることで成熟するのではない。脳には言語、視知覚、感情、実行機能などさまざま機能をもつ領域がありますが、異なる領域どうしがより多く接続され、各領域がより専門化することによって成熟します。脳内のネットワークのつながりが変化し、脳領域間の接続が増加し強化されるというのです。10歳過ぎから30歳頃にかけて成熟します。

 脳の各領域は足なみをそろえて成熟するのではないようです。感情や動機づけに強い関連を大脳辺縁系は10代前半の思春期に急激に発達します。大脳辺縁系は海馬、扁桃体などのいくつかの領域からなり、脳の内部にあります。
 一方、組織化や意思決定、計画、感情の制御能勢2など実行機能と言われる機能に関連している前頭前皮質は、大脳辺縁系より10年ほど遅れて成熟します。感情をつかさどる大脳辺縁系と衝動的行動を制御する前頭前皮質の成熟に時間的なズレがあることです。感情や衝動のアクセル役とブレーキ役の領域の成熟にミスマッチがあるので、10代の若者は子どもや大人に比べて危険な(感情的な)行動を取りやすいと言えるそうです。

 環境に合わせて脳の領域間のネットワークを変更してさまざまな行動がとれるという柔軟性、可塑性は10代の特権ですが、一方でそれがあだとなる脆弱性も潜んでいます。振れ幅の大きさこそが10代なのかもしれません。「10代の若者は自身のアイデンティティーを作り上げるすばらしいチャンスを手にしている。自らの選択に従って自らの脳を最適化しているのだ」と論文は結んでいます。   (ホンダタカシ)

2017/10/13 11:24 | 未分類trackback(0)  | top

トラウマ理解は対象者の支援に欠かせない

  「週間福祉新聞」(9月25日)に、日本精神保健福祉士協会の全国大会が大阪市内で開催された昼下がり記事が載りました。そのシンポジウムで篭本先生からご自身の治療経験をもとに、「子ども時代の虐待体験が成人後の精神疾患の原因となっている人が多い。・・」との指摘があったと記事は伝えています。 児童期逆境体験ACEは成人期の心身の状態に大きな影響をもたらすという指摘です。

 インターネットをたぐっていると、法務省の「若年者に対する刑事法制の在り方に関する勉強会」に行きあたりました。民法では成年を20歳としていますが、選挙出来る年齢が18歳とされた結果、刑事司法の立場から成年を何歳とすべきかを検討されているようです。
影
  この勉強会では、犯罪、あるいは非行をした未成年者から成人にいたる青少年について議論されています。この勉強会は平成27年11月にスタートし10回開催されていますが、その平成28年3月の7回目は実践的に活動されている精神科、小児科の先生が意見を述べられ、その議論や資料が大変面白く有益です。http://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00131.html
 昼下がり2
 とりわけ、八木先生の資料は有益で刺激的です。脳の発達と成熟、善悪などの判断能力や自己制御能力の発達やそれらに影響するトラウマ要因、さらに可塑性や教育の可能性について幅広く検討されています。この資料においても児童期逆境体験ACEがあげられています。「ヒトの発達」をテーマにしたスライド資料では、遺伝的要因と後天的な学習要因を前提にした、発達特性ーアタッチメント(愛着)ートラウマ(ーレジリエンス)の相互作用の図式が示されています。興味深いもので、見方を変えれば子どもから成人になるプロセスを発達特性、アタッチメント、トラウマ(とレジリエンス)でとらえることが有効だとの指摘だと思えます。相互作用を繰り返す3要因+1要因の拡大、縮減、偏りなどが問題行動や脆弱性をもたらしていると見ることができます。        (ホンダタカシ)

2017/09/30 15:59 | 未分類trackback(0)  | top